インボイス対応は何をすれば良いのか
お客さまからインボイスについてお問い合わせを頂くことが多くなって来ました。
実際に運用が始まるのが令和5年10月1日、登録の申請期限が令和5年3月末と残り半年に迫ってきたことで、ようやく今から動こうという方も多いようです。
消費税について分かりやすく学ぶ
基本的な消費税の仕組みや、法律用語、制度自体については国税庁の下記のユーチューブ動画、パンフレットをご参照下さい。
最初にユーチューブ動画を見た後で、詳細についてはパンフレットを確認された方が理解が進みます。
適格請求書等保存方式の概要
何をすべきかは各事業者の状況によって異なる
インボイス制度が事業者の方々にとっていまいち分かりにくいのは、各事業者が取引しているお客さまや仕入業者によって取るべき対応が異なる、という点にあります。
同業者が集まって情報交換した場合でも、各社の取引先が異なるため、自社目線で判断していくことが必要になります。
以下では分かり易さに重点を置いて、一般的な原則論でまとめてみました。
1.課税事業者(基準期間の課税売上高が5,000万円超)
このパターンの場合、適格請求書発行事業者の登録申請をまず行いましょう。
令和5年3月末までに登録申請手続きを行って、国税庁のホームページを参考にしながら、社内で発行する請求書等を要件に該当するフォーマットに順次置き換えていきましょう。
また、仕入先が適格請求書発行事業者か否かを把握していくことが必要になります。
この確認作業は、手作業で行うことは実質的に不可能だと思いますので、会計システムなどでの対応が必要になります。
2.課税事業者(基準期間の課税売上高が5,000万円以下)
こちらも、まずは適格請求書発行事業者の登録申請を行いましょう。
1.の事業者と異なるのは、簡易課税の選択を検討する必要がある点です。
インボイス制度において、簡易課税制度を選択する最大のメリットは、1.の事業者が行わなくてはならない仕入先ごとの適格請求書発行事業者の確認作業が不要になる点です。
売上高に応じた仕入税額控除額が自動的に決まるため、仕入先が適格請求書発行事業者か否かが影響しなくなります。
ただし、自社が発行する請求書などのフォーマットを適格請求書に変更する作業は必要になりますので、こちらの作業は粛々と進めましょう。
3.免税事業者(お客さまが課税事業者中心)
インボイス制度の導入で一番悩ましいパターンが、自社が免税、得意先が課税事業者というこのパターンになります。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下のフリーランスのライターさんや、ひとり親方などがここに該当します。
適格請求書発行事業者の前提は課税事業者となりますので、選択するとなると消費税の納税義務が否応なしに発生します。
得意先との関係性や、消費税額の計算の手間、納税資金の準備など影響が大きいので、よく考えて判断する必要があります。
仮に、適格請求書発行事業者になることを選択した場合は、当然ながら2.の簡易課税制度を検討することが必要になります。
4.免税事業者(お客さまが免税事業者中心)
一般消費者がお客さまの中心となる、飲食店や美容室などがここに該当します。
一部の得意先に大口の課税事業者がいない限り、基本的には免税のままでいくのが自然だと思われます。
適格請求書発行事業者を選択しない場合は、何が起きるのか
インボイス制度は、適格請求書発行事業者になるのか、ならないのかを納税者に委ねています。
このため、課税事業者だけど、適格請求書は発行しない、という選択も当然あり得るわけです。
また、3.の免税事業者だけどお客さまは課税事業者が中心、といった方が適格請求書を発行しない場合は、どのような影響が出るのでしょうか。
実際に運用が始まってフタを開けてみないと分かりませんが、現時点で想定される事態を考えてみます。
取引先から選択を迫られる可能性がある
最初に押さえておくべき事実として、適格請求書以外の請求書については、令和5年10月1日以降、仕入税額控除を一部受けることができなくなります。
一部というのは、令和8年9月までは80%、令和11年9月までは50%まで仕入税額控除を認める経過措置期間が設けられているためです。
逆に言えば、適格請求書以外の請求書では、令和5年10月から令和8年9月までの間は、20%の仕入税額控除を受けることができない、ということになり、その分、消費税を多く納めなくてはなりません。
このため、令和5年10月1日以降は、課税事業者については、適格請求書を発行できる事業者との取引を優先するインセンティブが働くことになります。
もし御社がお客さまにとって大切な仕入先で、取引量もそれなりにある場合は、適格請求書を発行して欲しい、つまりは適格請求書発行事業者になって欲しい、と依頼される場合も考えられます。
また逆に、御社が課税事業者の場合は、当然ながら適格請求書による仕入税額控除の方が有利なため、仕入先に適格請求書を発行して欲しい、と思うことは自然なことです。
上記のような場合には、取引先とよく協議することが必要になります。
ちなみに「貴社は免税事業者だから、貴社とは取引をしない」と言ってしまった場合、優越的地位の濫用で独占禁止法に抵触する可能性がありますので、注意が必要です。
公正取引委員会
免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A Q7
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/invoice_qanda.html
冒頭の繰り返しになりますが、インボイス制度の難しさは、自社が課税・免税であるかの違いに加えて、取引先が課税・免税であるか、また、取引先との取引量や力関係によって取るべき対応が異なってくる点にあります。
自社が課税事業者、相手も課税事業者である場合を除いて、取引内容や税額への影響も考慮し、慎重に判断していく必要があります。
不明な点や疑問点がある場合は、顧問税理士に相談しましょう。